〜ふくろの味〜


夜の勉強塾。夕飯を済ませて塾に来る子は稀だから、九時をまわるとさすがにお腹が減ってくる。

「あ〜手作りカレーが食べたいなぁ」とA子。「手作りってどうゆうこと?」と誰かが聞くと「だってうちの母さん、レトルトばっかだもん」。

兄弟で塾に通う弟の方は来る前に夕飯を済ませたらしく、「兄ちゃん、今日のおかずは肉じゃがと茶碗蒸しだったよ」と報告していた。すると「いいよね、男子の母さんはお料理に気合いれてくれるから」とA子。「えっ、女子の母さんは作ってくれんの?」と兄。ほとんどの女子が「そう言えばそうだよね」と頷きあっていた。

A子は以前、友だちの弁当をのぞいたことがあった。このシューマイは小エビがのってるから、P社のだ。このハンバーグは大きさからいってQ社のだろう。なんだみんなのお弁当も冷凍食品じゃないか。そういうと隣の席の女子が「そうさ、あれもチンこれもチンして作るから、うちではチンチン定食っていってるよ」。すると別の女子は「うちのおかずは何でも袋入りだから、おふくろの味じゃなくって『ふくろの味』って呼んでやってるんだ」。ついでに皆で男子の弁当を見たら、ずいぶん手の込んだおかずが詰められていた。「すごいじゃん」と言うと「昨日の晩御飯の残り物を詰めただけじゃねぇの」と男子。「それでもいいじゃん、うちの母さん晩御飯も『ふくろの味』だよ」。

「ねぇ、どうしてうちはおかずを作らんの?」とA子は母親に聞いてみた。「どうして作らんのって、作ってもそんなに食べんがね、あんたら。食べん物を作ってもたわけらしいでだわ」と母。「それに今さら嫌だがね。買えば何でも売っとるのに面倒くさい」と、母はとりつくしまもなかった。これ以上言えば「そんならあんたが自分で作ればいいがね、あんた女の子でしょう!」と言われるのに決まっている。

作ってみようかな…。でも、誰にお料理を教えてもらえば良いんだ? 私。

(J)

2008.1.21発行 KID'S倶楽部 Vol.164