《温暖化の犯人》


温暖化ガスの筆頭は御存知二酸化炭素だが、第2位はメタンガスである。メタンは生物ガス。米国や豪州が京都議定書に参加しなかった理由のひとつは、牛が発生させる膨大なメタンだ。

豪州は昨年から入植以来最悪の旱魃被害に苦しんでいるが、これが温暖化の影響によるものであることは疑いないことだ。豪州が持続的な成長を望むのであれば、輸出産業としての畜産と化石燃料による発電を捨てざるを得ないだろう。火力発電を捨てるとなれば水力発電なのだが、豪州のような低緯度地域では、かえってメタンの産出量を上昇させてしまう恐れがある。水温の高さはダム湖に生息する動植物を腐敗させるので、それらが出すメタンの量は馬鹿にならないのだ。メタンの和名は「沼気(ショウキ)」。何だか瘴気(=山川の悪気)を連想させて不気味だ。ちなみにメタンの温暖化能力は二酸化炭素の20倍以上である。

となると、原子力発電に頼らざるを得ないという話になる。幸いにも豪州は原料のウランだけは自力で調達できる。そして技術は大いに日本を頼ればよいのではないか。日本の原発産業は、日立がゼネラルエレクトリック社と一体化して沸騰水型を、東芝がウエスティングハウス社を買収して加圧水型を、また三菱工業もフランスのアレバ社と組み、今や世界の三大潮流を成しているのだ。

豪州のダムと同じ意味で恐いのが、中国の三峡ダムである。120万人を強制移転させ、百帝山などの歴史的遺物を犠牲にしてまで作らねばならないほど、中国の電力と水の安定供給は急務なのだ。しかし、その超巨大なダム湖が超巨大な生ゴミ集積場と化すのは、地理的にも気象的にも避けるのが難しい。我国は季節風のお陰でインド以東の湿気を独り占めできるのだが、風上に巨大なメタンガス発生装置があるのは困ったものだ。

2007.7.4発行 エコノミスト●なごや Vol.30