千円


A男は運動部のキャプテン。悩みは最近、下級生がちっとも部活に出てこなくなったことだ。部活が嫌ならやめればいい。退部届けも出さないのなら、それは単なるサボリだ。A男は皆と相談して下級生を呼び出して注意をした。
翌日、部室のロッカーからA男の靴がなくなっていた。部室中を探し、ロッカーを探した挙句、靴はズタボロになって校舎裏で見つかった。誰かのイタズラだ。A男は部活の仲間に相談した。そして注意されていた時の態度や目撃談から、犯人は下級生のBということになった。呼び出して問い詰めたところ、やはりBの仕業だった。「僕の靴をクチャクチャにしたし、一緒に探してくれた皆にも迷惑をかけた。お詫びのしるしに千円持って来い!」
この件が「悪いのはうちの子なのですが、一応お金のことがありますので…」とBの母親によって学校に連絡が入れられた。さっそく関係者全員が呼び出されて事情聴取がなされ、金銭の要求は持ってのほかと説教された。”主犯”のA男は親の呼び出しであった。「ゆすり・たかりのチンピラなら、何万円も要求します。A男君は不良ではないから千円だったのでしょうね。しかし金銭要求は金銭要求です。親子でB君の家に謝罪に出かけてください」。
母親は「お金を要求するなんて最低のこと。たとえ十円でもダメです。出席が悪くて困ったら、まず先生に相談するのが筋です」と厳重にA男を叱り、Bの家に謝りに出かけた。B君のお母さんは、「出て来いと何度も言われたのに行かないことも、靴を隠したこともうちの子が悪いんです。上級生として叱るのは当たり前ですよ。でもお金が絡んだのは悪かったわね。どうかもう謝らないで」と、部活の何たるかを十分理解した態度で応対してくれた。
その後、雨降って地固まったのか、B君も含めた下級生とA男たち上級生の仲は円満となり、卒業式のときは下級生の「ありがとうございました!」という心からの言葉でA男たちは送られた。

2007.6.18発行 KID'S倶楽部 Vol.157