いってきまーす


突然、職を失ったA君のお父さんは、次の仕事が決まるまでの間、平日の昼間に家にいる事が多くなった。

A君は4年生。今までは平日の朝も昼も夜もお父さんに会う事は少なかったので初めのうちは大喜びしていた。友達の誘いを断って家でお父さんと遊んでいたのだが、それが毎日となるとお父さんが家にいるのが当たり前になってきて、2週間もすると感動も薄れてきた。

A君は以前の日常を取り戻し、学校から家に帰ると友達と遊びに行くようになった。いつものようにゲーム機を特製のポーチに入れて「いってきまーす」と家を出ようとした時、お父さんにつかまった。

「A君、外で遊ぶんじゃないの? 何でゲームもっていくの?」とお父さんは質問した。A君は「公園でみんなとゲームするんだよ」と『お父さん、何を言っているの?』と言いたげに返事をした。

家族でアミューズメントパークやショッピングモール等に出かけると、休憩所のベンチ等に子ども達が数人集まって、黙々とゲームをしているのを見かける事が多い。「遊園地にまで来て、なんでゲームをしているのか。変な子たちだなぁ」とお父さんは思っていたが、A君も同じだった事を知ったお父さんはショックを受けた。

「A君、おかしくない? ゲームは部屋の中でやるモンだろう?」とお父さんが言うと、「このゲーム機は外でできるように小さいサイズになってるんじゃないの?」とA君は答えた。「友達の家で、おっきなテレビでやればいいじゃん?」とお父さんが言うと、「誰の家に行っても、ゲームしてると叱られるんだもん」とA君はめんどくさそうに言った。お父さんは「あぁ、そっか…」としか言えなかった。

家で子ども達が集まって延々とゲームをしているのは、確かにガマンならない。自分が子ども達に混ざってゲームをするわけにはいかないし、何よりも子ども達にテレビを長時間占領されてしまうのはツライ。やっかい払いをするように「外で遊んできなさい」と追い出してしまうだろう。

「でも公園に行くんなら、ゲームじゃなくても鬼ごっことかドロケイとかすればいいのに」とお父さんが言うと「そんなに人数が集まらないもん。それに暴れて遊んでると絶対に誰かに叱られるから、何して遊んだらいいかわかんない。ゲームなら叱られないもん」とA君は言うと、「もうみんな集まってるから、行ってもいい?」と続けた。「あ…うん。気をつけてね」とお父さんが言うと、再び「いってきまーす」と元気に走り出していった。

お父さんはハローワークのホームページを開いて、悶々とした気分のまま仕事探しを再開した。 

KID'S 倶楽部 Vol.196 小学百景