自由研究?


8月下旬のある日、小学3年生のA君は、友達のK君と遊ぶ約束をしていた。出校日の帰り際、K君が「じゃぁ、今度の火曜日にボクの家に遊びにこない? 一緒にモンスターを倒そうよ」と言いだし、K君の家で一緒にテレビゲームをする約束をしたのだった。

今日が、その火曜日だ。K君の家を知らないので、近所の公園で待ち合わせをしていた。「今日、ボクんちダメだって。外で遊んで来いって言われちゃった」とK君が言った。A君が「じゃぁ、何して遊ぶ?」と言うと、「暑いから、ショッピングセンターに行こうよ」とK君が提案した。A君は「うん、いいよ」と言ったものの、ドキドキが止まらなかった。一緒に大人がいないのに、ショッピングセンターに行くのは初めてだったのだ。

ショッピングセンターに着くと、「涼しい! 涼しい!」と大はしゃぎで走りながら、二人は迷わずゲームコーナーに向かった。ゲームコーナーに着いたら、ゲームをするためにメダルを買う。百円でメダルが二十枚もらえて、ゲームに勝てば増やすことができるのだ。

そこで、A君は驚いた。K君はポケットから財布を出したのだ。A君は一度も財布なんか持った事がない。財布が必要な額を持たされた事がなかったのだ。K君の財布には、お金がジャラジャラと入っていた。

A君が全財産を使い果たした頃、K君が「いっつもココにくるとラーメン食べるんだ。ラーメン食べに行こう」と言いだして、二人でフードコートへ向かった。ラーメン屋さんの前で「A君、何食べる?」と聞かれて「もうお金ないから」とA君は無一文を告白した。K君は「え、何で? 貸してあげようか?」と言うが、お金の貸し借りは絶対してはいけないと言われていたA君は、キッパリと断った。

フードコートの4人掛けの席に、子どもが二人と一つのラーメン。K君はおわんを持ってきて、「ミニラーメンだ」とラーメンを分けてくれた。K君には善意しかないのだが、A君は誰にも言えない「屈辱」を、生まれて初めて感じたのだった。

その日から、A君はヨソの家の常識に興味を持つようになった。「他の友達も、みんな財布を持っているのだろうか」「他の家では晩御飯は何時に食べるんだろうか」など、今まで気にならなかった事ばかりだ。うらやましい事があると、どうしてウチはそうでないのか? と考える。夏休みの宿題なんかより、よっぽどむずかしい自由研究の日々が始まった。

KID'S 倶楽部 Vol.193 小学百景