もったいない!


S子は「もったいない」と言う言葉が大嫌いだ。周りの大人は「もったいない、もったいない」と言い続けている。例えば、一人でエアコンをつけて昼寝なんかしていると「電気代がもったいない」と叱られる。起きていれば叱られない理由がわからない。省エネのエアコンに買い替える事もしない。また、「もったいないから」と言って3日も4日も前の料理がいつまでも食卓に並ぶ。スッパくなるまで出てくる。わからないのは、その料理が出てくる間も食材は購入されている事だ。購入された食材は冷蔵庫で鮮度が落ちきった頃に調理される。そっちの方がもったいないと思うのだが。

夏休みのある日、母親と祖父母の家に遊びに行った。祖母はS子が来るのを楽しみにしていて、服などのプレゼントを用意していてくれた。毎度、趣味ではない服をもらう度に喜んで見せるのは、S子には苦痛だった。

母と祖母がキッチンに入ると、居間で祖父と二人きりになった。S子は「おじぃちゃん、もったいないって何?」と、積もり積もった疑問と不満をぶつけてみた。祖父はチラリとS子に目をやると、再びテレビに目を戻した。「Sちゃんは、今日もらった服を着るか? 好みじゃないだろう?」と祖父は小さな声で言った。S子はドキリとしたが「うん。でも着ないと『もったいない』って叱られる」と答えた。「せっかく買ったのに、着ないのはもったいないな。でも、一番もったいない事をしてるのはバァさんだな。そんな服を買ったバァさんが一番もったいない。Sちゃんは『もったいない』を押し付けられちゃってるんだな」と祖父は言った。「そうなの」とSちゃんは言いながら、初めてその事に気が付いた。

「ホントに『もったいない』のは何なのか、自分で考えるしかないな。考え方で答えは変わるから。『もったいない』って言われても、自分が違うと思った時は聞き流しておきなさい。反論しても腹が立つだけ損だよ」と言う祖父。祖父が普段無口な理由が少しわかった気がした。

「Sちゃんは自分がされてイヤだった事は人にしてはいけないよ」と、祖父はテレビから目をそらさずに付け加えた。

KID'S 倶楽部 Vol.193 中坊白書