おかしな話


僕はナスが嫌いだ。色も形も、臭いも嫌いだ。歯ごたえはもっと好きになれない。口に入れたらげっぷが出るくらいだ。
それが今日の保育園の給食で出た。給食で出た。そういえば、毎朝「今日の献立はね…」と話してくれるママは何も言わなかった。知ってたんだ。きっと。

どうしても食べれない。箸でよけて食べる。どうしても食べられない。食べ終わった子は本を見ている。早く食べなくっちゃと思うとよけい食べられない。目をつむって口に入れたけど、ダメだ。ああ、だめだ。とうとう、僕一人になっちゃった。

先生がきた。「どうしたの、おナスが食べれないの」と聞くから、「僕はきらいだ」と言った。僕の前に先生が座った。涙は絶対に出さないぞ。「このナスはね、どこから来たのかな。誰が育てたのだろうね」と言う。「そんなの知らないよ」と言おうとしたけど、言えなかった。「このナスはお百姓さんが種から育てたのよ。雨の日も風の日も、丈夫に育つようにしてね」そして、きれいに洗って、箱に入れて、市場に運び、又運ばれて八百屋さんに。そこから保育園に来て、給食の先生がみんなに食べてもらおうと、丁寧に料理したんだって。

ふ~ん。あんまり言うから、一切れだけ食べた。でも嫌いだ。そしたら、「身体を強くするビタミンやカルシュウムが一杯」と言うので、また少しだけ食べた。「もう少し頑張ろう」と言うから、また少し食べた。気がついたら、ほとんど食べていた。

家に帰ってママに報告した。「今日ね、ナスが出たけど食べたよ」。きっと褒めてくれると思った。
「えっ、嫌いでしょ」
「うん、嫌いだよ」
「嫌いなのに食べたの?」
「うん」
「どうして食べたの?」
「…だって先生が食べなさいっていうから」

ママは「嫌いなものは食べさせないで下さい」と保育園に電話したらしい。

KID'S 倶楽部 Vol.193 幼年図鑑