親分と子分


君がK君に脅かされて従っているわけでもなかったし、K君が皆が逆らえないような「ガキ大将」だったわけでもない。それが二人にとって自然なスタイルだったのだ。

ある日、学校で国語の小テストが行われた。
よくある最近習った漢字の読み書きができるかどうかの小テストだ。簡単なテストではあったけれど、80点以上正解するまで(覚えるまで)「居残り」しなければいけないというペナルティがついていた。

小学校の居残りなので限度がある。別の用事があればそちらが優先されたし、決して遅い時間まで居残りさせられることはなかった。適当な時間になると先生から「しっかり勉強しておくように」と言われて帰される。

その日、いつものごとくK君は居残りをする事になってしまった。N君は結構はやく80点をクリアしたので、K君の様子をチラリと伺った。その視線に気づいたK君はクルリと顔をN君の方に向けて、「ちょっと待ってて。すぐ終わるから」とつぶやいた。N君はいつもの事なので、「うん。がんばってね」と、決して急かすこともせずに、ただ時間をつぶして待っていた。

季節は冬。そんなに遅い時間まで居残りがなかったとしても、油断していると、あっというまに外は暗くなってしまう。

K君が居残りから解放されたのは、日が暮れはじめた頃だった。学校を出れば、一気に回りは暗くなるだろう。K君は決して口に出さないけれど、暗い夜道を一人で歩いて家に帰るのが怖くて怖くて仕方がなかった。

N君はそれを知っていた。
N君がK君を黙って待っていたのには、「親切」「仲良し」以外にも理由がある。暗い夜道では親分・子分の関係が逆転するのだ。だからと言って、N君がK君に命令を出したりするワケではないのだが、K君は明らかに気弱になる。

N君はK君に頼ってもらえる暗い帰り道を、いつも楽しみに期待しているのであった。

KID'S 倶楽部 Vol.188 小学百景