あぁ、中学生


子は中学2年生の二学期の途中に今の学校に転校してきた。

転校初日というのは、他の子たちに兎に角観察されるのだ。知らない子だらけの教室で常に緊張するM子。筆箱を開けるのにも音を立てないようにとか、咳払いもトイレで隠れてするくらいの緊張ぶりだ。

そんなガチガチに緊張している時ほどヘマをしてしまうもので、授業中にヒジをひっかけて机の上のノートや教科書をハデに落としてしまった。周りの視線をあびながら「あぁ、やっちゃった…」と泣きそうな想いで教科書を拾い上げると、前の席の男の子W君が離れた場所に飛んでいったノートを拾ってくれた。M子は「ありがとう」と赤面した顔を上げずに受け取った。

授業が終わると「あぁ、もう今日は早く帰りたい」と願い続けるM子に、W君が声をかけてきた。

「授業中に落としたノート、みせて」と言ってきたので、M子は不思議に思いながらもノートを手渡した。W君はノートを適当に開くと、端っこの方にゴショゴショッと何か書き込んでノートを閉じた。W君はノートをM子に返しながら、「家に帰ってから開いて見てね」と告げると、足早に逃げるように帰っていった。

家についたM子。
不安げにノートを開いてみると、W君が慌てて書いた文字を発見した。薄くてヘタクソな字で「スキ」と書いてある。思いがけない告白に、M子は大いに喜び、戸惑った。

親に言うわけにはいかないし、学校にはまだ友だちがいないから、誰にも自慢も相談もできない。W君が嫌いなわけでもなかったが、学校では顔をみれなくなってしまった。W君も同じだったようで、学校でW君と話すことも目が合う事もない、気まずい日々が過ぎた。

転校してきてそろそろ一カ月がたとうとする頃、W君は転校していってしまった。
M子が後で聞いた話だと、W君の転校は前から決まっていたらしい。なのに、なぜノートにあんな事を書いてきたのだろう?

それから四ヶ月後、引っ越したW君から再びラブレターが届き、M子はまた悩みを抱える事になるのであった…。

中学生というのは実に羨ましい悩みの多いお年頃である。

KID'S 倶楽部 Vol.188 中坊白書