なんで?


数年前の、今ほど「格差社会」が目立っていない頃の話。
4年生のKちゃんの住む港町では、不思議な格差社会が生まれていた。学校の中で、突如お金持ちになった子どもたちが現れ始めたのだ。

みんなが欲しがるキャラクターグッズだらけの文房具に、毎日おしゃれでヒラヒラな服。「いいでしょー、いいでしょー」とみせびらかして回るCちゃんは、周りの皆をいつも羨ましがらせていた。

Kちゃんは「どうして急にお金持ちになったの?」とCちゃんに聞いてみると、「Kちゃんのお父さんはサラリーマンなの? だったらダメだよ。漁師さんじゃなきゃダメ」と言われてしまった。

Kちゃんは家に帰ると、お父さんに「漁師さんになって」とお願いした。お父さんは不思議で仕方がない。「何で漁師さんがいいんだ?」と聞くと「お金持ちになりたいから」とKちゃん。
お父さんは頭をかかえた。

この町の海には新しく空港ができる。
海に空港なんか作ってもらっては魚が取れなくなって漁師さんたちが困る、という事で、漁師さんたちには多額の保証金が支払われていたのだ。漁師さんたちはこぞって車を高級車に買いかえるわ、家を立て替えるわ、とにかく他の住民の目をひいていた。

困ったKちゃんのお父さん。本音は「漁師さんばかりズルイ」と思っているが、それをKちゃんに漏らすわけにはいかない。「お父さんは漁師さんになれないんだよ。でも、会社でいっぱい頑張ってくるからな」と言うしかない。

「なんで? なんで漁師さんになれないの?」とKちゃん。「なんでって…お父さん力持ちじゃないし、病弱だから」とお父さんが答える。
Kちゃんは、さらに「どうして力持ちじゃないの?」と聞いてくる。

「何で?」の無限ループを察したお父さんは「どうしても!」「なんでも!」だけを繰り返した。あんまりしつこいので、「じゃぁKちゃんは大人になったら漁師さんと結婚すればいいよ」とお父さんが言うと、「ヤダよー。Cちゃんが『家は漁師さんで、結婚相手はサラリーマンがベスト』って言ってたもん」。

あんぐりと口を開けたお父さんを見て、Kちゃんは無邪気に笑い続けた。

KID'S倶楽部 Vol.187 小学百景