卒業アルバム


中3の2学期、A男は突然転校した。
A男の家は半年程前に近所に引越しをしていて、本当は2つ隣りの中学校に通わなければならなかったのだが、せっかく馴染んだ学校だったし、A男は転校したくなかったので越境通学を続けていた。A男には同じ中学に通う弟がいたが、弟も同様に越境通学をしてた。

ところが、弟が近所の学校に転校したいと言い出した。どんな事情からかはA男は知らない。
A男は「3年のこの時期に転校するなんて話、聞いた事ないよ。別に今まで通りでいいじゃん。転校したくないよ」と言うと、母親は弟だけ転校できるように先生にお願いしてあると言った。

A男は安心して夏休みを迎えた。

結果としてA男はクラスの皆に挨拶する事もなく、突然転校する事になった。
同じ家に住む兄弟が別々の学校に通うなんておかしな話だし、当然といえば当然だ。先生がウソを言ったか手続きを間違えたのか、母親がデタラメを言ったのかはわからない。A男は大人の都合で振り回された事に腹がたった。

A男は、新しい学校にはめったに通学しなかった。学校からの電話がジャンジャン鳴って、親もわめき散らしたが学校に行こうとしない。適当な時間になると前の学校の近所まで出向いて遊んでいた。

そんな日々を送っているうちに、卒業シーズンに突入した。一番気になるのは卒業アルバムだ。前の学校では1学期の間にアルバム用の写真の撮影を終えていた。A男は友人を通じて、前の学校の先生にA男の分の卒業アルバムも取っておいて欲しいと前々から頼んでいた。

が、案の定A男の分は用意されなかった。
先生に抗議すると、「あぁ、ごめん。忙しくて忘れてたわ」と言われておしまい。A男の手元には、知らない人ばかりの学校の卒業アルバムが届いた。

何もかもまともな手段を取っていては、自分の主張は一切通らないな、とA男は痛感した。

KID'S倶楽部 Vol.187 中坊白書