小学百景 昼休憩


学校の昼休憩。
『休憩』とは先生が休憩する時間で、子どもたちは退屈な休憩なんかしていられない。

教室でおしゃべりする女子や運動場で走り回る男子。大体同じ仲良しが集まって、毎日ほとんど同じ様な事をして遊んで過ごしている。飽きないものかと思うと、やはり定期的に飽きがきて、いつもとは違うこと探し始める。

ある日の昼休憩。T君はいつもは友達と運動場でボール遊びをしているのだが、その日はトイレに行っている間においていかれてしまった。T君も「何か違う面白い事ないかなぁ?」と思っていたので、他のグループが何して遊んでいるか観察してみる事にした。

とりあえずT君は教室に戻ってみたが、教室に残っていた多くは女子でTVやアイドルの話で大盛り上がり。T君は教室にいてもつまらないな、と廊下へ出た。運動場へ行くと、きっと誘われていつもと同じ事になるだろう。今日は運動場以外で遊んでいるグループを観察する事にした。

校舎を出て運動場に向かう途中、T君は体育倉庫の裏で一人で側溝にうずくまって何かしているK君を見つけた。K君とは昨年まで同じクラスだったが、遊ぶグループが違った。K君とはあまり会話をした事がなかったが、思い切って声をかけてみた。

「K君、何してるの?」と聞くと、K君はためらいがちに「絶対ナイショだよ」と釘を刺してから「砂金を掘ってる」と教えてくれた。T君は『砂金』が何なのかわからなかったが、『金』というからにはスゴイものに違いない。目を輝かせて「砂金? 何それ? 何それ?」とK君の横に一緒に座った。
「このドブ(側溝)に残ってる砂に、金が混じってるのを発見したんだ。ほら、今日はこれだけ採れた」と収穫を見せてくれる。それはキラキラ金色に輝いて、紛れも無く金に見えた。
「K君、すごいね! オレも手伝う! 手伝っていい?」とT君は食いついた。「いいよ。でも絶対ナイショね」とK君は受け入れてくれた。T君は砂の中から金を見つける度に「これ、そう?」とK君に確認する。それから毎日昼休憩の時間はK君との砂金掘りに費やした。

砂金掘りを始めて4日。その日も「オレの方がデカイのみつけた!」「すごいよ、こんなに貯まってきたよ!」と大はしゃぎしていると、「そこで何やってる!」という先生の怒鳴り声で中断させられた。二人はしょぼくれて半泣き。K君は「砂金を集めてました」と収穫を先生に差し出した。

先生は何か悪さをしていると思って怒鳴りつけたので、困ってしまった。「そ…そうか。どれ」と差し出された砂金を鑑定した。
「うーん。これ金じゃないよ」と先生が言うと「じゃあ何ですか?」とK君。「わからないけど、金じゃない」と先生。T君は納得いかなかったが、大人がこういう返事をする時に問い詰めると、最終的には怒鳴って叩かれると感じて「K君、もう行こう」と体育倉庫裏を後にした。

二人も金じゃないことくらいは薄々感じていた。金がこんなザクザクと採れるはずがない。先生は『それを言っちゃあオシマイよ』という事を言ってくれたのだ。二人は秘密が共有できて、わかりやすい成果が得られるのが楽しくて仕方なかっただけだ。

とはいえ、二人ともそろそろ砂金に飽き始めていた。「今度は何を探す?」という作戦会議で、その日の昼休憩は終わってしまった。

KID'S倶楽部 Vol.186