小学百景 ランドセル


Y君は5年生のやんちゃ坊主だ。Y君のお母さんの口癖は「もったいない」で、Y君は耳にタコができるくらい「物を大事に使うように」と言われていた。

ある日の帰り道。午前中に降っていた雨がやみ、Y君が手に持っている傘は「おもちゃ」以外の何物でもなくなっていた。

傘で遊ぶのは楽しい。しかし、Y君には他の思惑があった。以前から新しい傘が欲しいとおねだりしていたが、傘の骨が一本や二本折れたくらいでは買ってもらえなかったのだ。おもちゃも学用品も、そう簡単には新しい物を買ってもらえないが、完全に使い物にならなくなってしまえば、お母さんも買ってくれる事を知っていた。

友達とワイワイ騒ぎながら、傘で地面に絵を描いたり、道路でひきずって傘の先を削ってみたり、マンションなどのフェンスや柵があれば傘をひっかけてガランガランと音をたてて全力疾走。友達同士でランドセルに傘をひっかけて、傘をひっかけられたY君はそのまま走りまわって友達を引っ張る。

大はしゃぎで遊んでいると「ブツン!」と鈍い音がして、ランドセルの型にかける部分が金具ごと引きちぎれてしまった。Y君は、前からハサミでゴリゴリとこすってみたり、無理に引っ張って「メリメリ」といい音がするのを楽しんで遊んでいたので、ちぎれてしまうのも無理もない。傘を壊して新しい傘を買ってもらおうと思っていたのに、思わぬ事態が起こってしまった。

家に帰ってからが大変だ。必死になってランドセルを隠してコソコソと部屋に入る。お母さんにバレたら、大目玉をくらった上に、新品のランドセルを買いに行くと言うだろう。来年は6年生になるというのに、ピッカピカのランドセルを背負うのは絶対にイヤだ。

ガムテープやビニール紐で何とか補修しようとモゾモゾと作業していたら、ついにお母さんに見つかってしまった。「何やって壊したのっ!」と、お母さんは思った通り頭ごなし。「物は大事にしなさいっていってるでしょ!」と叱られるので、「フツーに使ってただけなのに…」Y君が言うと「嘘を言いなさい!」と怒鳴られて、ピッカピカのランドセルを買いに行く事になってしまった。

売り場に行くと、「どれにするの?」とお母さん。「何でもいいけど、ピカピカじゃないヤツがいい」とY君が答えると、「そんなのあるわけないじゃない。壊しちゃった自分が悪いんだからね」と叱られる。さらに「ランドセルが今度のお年玉の代わりだからね」と追い打ちまでかけられた。
Y君は半ベソをかきながら「傘も壊れそうなんだけど…」というと「壊れてから言いなさい!」と、また叱られた。

次の日。ピッカピカのランドセルは硬くて使いにくいし、おまけに教室ではみんなに笑われる。先生に「お、かっこいいなぁ」なんて言われても全然嬉しくない。

Y君は6年生のランドセルらしいアジを出すために、今日も一生懸命遊んで(使いこんで)いる。

KID'S倶楽部 Vol.185