小学百景 : いじめっこ


K君は、大人たちの間では「大人しくて礼儀の正しい」と良い子で有名だ。でも、学校の同級生たちの間では「いじめっ子軍団のリーダー」で有名だった。

K君と同じクラスのS君は、K君から直接いじめの被害を受けていたわけでは無かったが、何人も泣かされた子を知っていた。いじめらている子をかばうでもなく、先生たちに告げ口するわけでもなく、ただ自分が被害にあわないようにと祈りながら過ごしていた。

ある日、いつも通り友達と一緒に下校するS君だったが、途中で教室に忘れ物をした事に気がついて、一人で教室に引き返した。忘れ物をランドセルに入れて、再び校門を出ようとした時、K君とはち合わせてしまった。
お互い一人で、帰る方向も一緒。二人とも黙ったまま、なぜか並んで歩き始めていた。

沈黙を破ったのはS君だった。S君が「K君、今日は何して遊ぶの?」と聞くと、「え…別に遊ばないよ。S君は?」と聞き返された。「今日はN君と探検隊するつもりだったんだけど、N君が塾になっちゃった」とS君が答えると、「じゃぁ、ぼくと一緒に探検しない?」と、思いがけない事を言ってきた。S君はいじめっこ軍団のリーダーであるK君と遊ぶ事に抵抗を感じたが、何となく断れずにK君の誘いを受けた。

二人は家にランドセルを置いたら、自転車に乗って近所の公園に集合した。「探検隊」とは、町内を自転車で回るだけの遊び。「ここがA君の家」だの「ここがB君の塾」だのと言って回るだけだが、途中で他の友達が遊んでいるのと遭遇したり、ロマンがいっぱいの遊びだった。

途中で「休憩」と言ってK君はコンビニに入った。K君は「お母さんには内緒だよ」と、買ってきたジュースをS君に渡した。K君は初めての探検隊遊びを大いに気に入って、ジュースを飲みながら興奮気味に色々な事を話した。S君も同じで、初めてK君と遊んだのが楽しかった。

気がつくと、K君とS君の二人はベッタリの仲良しになっていた。授業の合間の休憩時間も、いつも一緒。トイレに行くのも一緒。
K君はS君と遊ぶのに大忙し。そうなると、いじめっ子軍団からは阻害され、K君にはS君しか友達がいなくなってしまった。

S君が「K君、何でいじめをしてたの?」と聞くと、「わかんない。楽しかったから。でも、今の方が楽しいや。」とK君は答えた。

KID'S倶楽部 Vol.184