居場所


父と母が仲良しだったのは、A子がうんと小さい頃だけだったような気がする。

庭でバーベキューしていたときの母の笑い声がうっすらと記憶に残っている。しかし小学校に入ってからは、母の叫ぶ声や泣き声に耳をふさぐ日が続き、そしてある日、母は家を出て行ってしまった。家には父とばあちゃんとお兄ちゃんとA子。しかし父は家にはあまりおらず、毎晩遅く酔っ払って帰ってくるのだった。

その生活が一変した。
父親が新しい女の人を連れてきたのだ。新しいお母さんだぞ、とも言われてないので、何て呼んでいいのかも分からなかったが、女の人もA子たち家族とは口をきかず、ただただ父に甘えてぶらぶらしているだけだったから不便さも気まずさも感じないで済んだ。

やがてばあちゃんが父親に文句を言うようになった。女の人のこと、お金のこと、A子たち兄妹のことだ。

お兄ちゃんは自分の部屋に立てこもっている。A子も家で過ごす時間のほとんどは自分の部屋にいるのだが本当は居間でテレビが観たかった。父親は学校にも行かず働きもしないお兄ちゃんに文句ひとついわない。きっと女の人のご機嫌をとるのに忙しいんだ。

やがて兄ちゃんはアルバイトに出るようになった。そして間もなく頭を銀色に染めたお姉さんを家に連れてきて一緒に暮らし始めた。二人はいつもスナック菓子を食べて生活していた。

「こんな家は狂っている」とばあちゃんがA子に話しかけた。
「こんな田舎じゃあ仕事もないから、ばあちゃんは親戚のいる都会に出て行くけど、A子ちゃんはどうする?」
「A子も連れて行って」。

そこは本当に小さなアパートだったけど、炬燵に入ってテレビ見て、ばあちゃんの親戚の家に遊びにいけて、A子はようやく自分の居場所を見つけた思いになった。

KID'S倶楽部 Vol.175:中坊白書