I LOVE NY


 日系3世のケビン(日本名ジロウ)、カルフォルニア生まれ、私の元ルームメイトである。カルフォルニア育ちのケビンは、25才のときに中学で数学を教える為カルフォルニアからニューヨークに引越してきた。
 我が家のルームメイトとして引っ越してきてから半年弱、中学の教師をしながら、そしてニューヨークという新しい環境での生活の中で、ケビンはどうしてもニューヨークという街が好きになれない、とよく話していた。米が主食の日本人同士、勿論ケビンも日本食が大好きなので、もう1人の日本人ルームメイトと私は、ケビンと家で晩ご飯を食べながら、何とかニューヨークを好きになろう、というケビンを2人で懸命に応援する事が何度もあった。
ニューヨークという大都会、そして教師というとてもタフな職業が自分に合わない事、様々な事が重なっていた。ニューヨークはカルフォルニアとは180度違い、常に忙しくて目標を達成したいという人間が世界から集まる所。空を見上げれば高層ビルが立ち並ぶ。
次第にケビンの中ではカルフォルニアに戻りたいという気持ちが大きくなっていった。これでカルフォルニアに戻ったら負け犬かと問うケビンに、私は負け犬じゃないと思うと答えた。もし彼がニューヨークに合わないのであれば自分を押し殺してまでこの大都会で辛抱する必要がない。何よりも彼の〝決意〟を一番大切にして欲しかった。
そして先月下旬、ケビンはカルフォルニアに戻る事を決意した。私もルームメイトも彼がカルフォルニアに戻る事をとても寂しく思いながらも、彼の決断を尊敬している。ニューヨークに合わないと思いながらも〝ニューヨークを出る〟ことに踏み切れず何も出来ない人間もニューヨークには多くいるからである。潔く決断する事も時にはとても大切である。
ケビンに出会い、カルフォルニア出身・在住の人達に合う機会が多くあったが、とても純粋だなぁという印象を受けた。ニューヨークでよく見かけるツンツンとしたオーラがない。ニューヨークが大好きな私、今回の事を機にカルフォルニアが一体どんなところで人々がどういう生活をしているのかを一度肌で感じてみようということで、9月に1週間ケビンの家を訪ねる予定をしている。カルフォルニアには10年前に3日間程旅行で訪れたが、さて来月一体どんな事を感じるのだろうか。とても楽しみだ。

2008.8.11発行 紙ひこうき Vol.326