産業編


京土


字のごとく京都の土であります。

 

壁土として使用するこの土は、平針・日進・緑区赤松あたりでとれる黄茶色の粘土で、 前記地域で採れた物が最も良質とされていました。

この採掘した粘土を天日で乾燥し、 石臼に入れて電動の杵で砕いて粉末にしたものが平針の特産品である京土です。

かつてはこれに石炭や切(すさ壁土に混ぜて亀裂を防ぐつなぎとする繊維質の材料) を入れて水でこね、一昼夜寝かせて使用したものです。

この壁土が京都風の室内壁土として非常に重宝がられましたが、年々使用者が少なくなり、 昭和六十三年頃に製造工場は閉鎖されてしまいました。

 

しかし明治後年から大正、昭和にかけての時代の主役は(あくまでも平針の、ですが) この京土製造に携わる人々だったのです。

我々が敬意を込めて「京土門人」と呼んでいた彼等のお陰で、 現在の旭病院のあたりに京土座という芝居小屋がつくられ、 活動写真(映画)や芝居のメッカとして老若男女を楽しませてくれていたのす。

 

磨砂 (みがきずな)


現在、台所用の中性洗剤が数多く出回っていますが、かつては「磨砂」といわれるもので 鍋、釜、食器類を洗っていました。

 

この「磨砂」は白色のたいへん細かい粒子の砂で、平針の地層の中にあります。

特に荒池の西北(平針字荒池七番地一帯)は磨砂の産地で、明治から大正にかけて大量に採取されました。 そのため、今でもこの一帯では時々土砂崩れが起こります。

 

数年前(平成10年現在)にも落盤事故があり、テレビや新聞を賑わせました。
筆者もこのことについて、テレビ局とも立ち会いましたが (淳子注:つまり和一がバリバリの平針弁でテレビ出演をしたわけです)、 いわき穴(亜炭の採掘穴)か磨砂の穴か定かではありませんでした。

採取が盛んな頃は排水のために、この砂の地層から荒池下用水路まで土管が布設されていたことを記憶しているのですが。

 

時代が流れ、磨砂の需要の下降とともに生産工場も少なくなりましたが、ちゃんと平針の磨砂は健在です。

西側の嘉佐張さん宅では息子さんが「嘉佐張」の「か」をとった商店を経営しています。

 

彫金家の長谷川竹治朗氏とまみ御夫妻も平針の磨砂の大フアン。

「ほかの人は薬品で研いでるんですけど、私たちは平針の磨き砂。絶対キズ付かないの。 毎回5~6俵くらい買ってくるんだけど、今度行くとき無くなってたらどうしようって怯えてるの。 ガラスの食器を洗ってごらんよ、もうピッカピカになるんだから」と絶賛。

一般の家庭での需要は減ったものの、磨き砂はいろいろな方面で活躍しています。

 

変わり種では銀杏の研磨。
銀杏はそのままですと汚れた感じの薄茶色です。それでは商品価値が下がり、 さりとて食品ですから洗剤を使用するわけにもいかない。そこで磨き砂。 大きな産地である江南市は 商店のお得意様なのだそうです。

 

屋根瓦


当平針の特産物として、テレビでおなじみ一二の三州瓦に負けない「瓦」の製造がありました。

平針の粘土は瓦に適していたので、現在の荒池一丁目(旧字奴女里川) や針名神社の現駐車場あたりの土を使用して、瓦の製造をしていました。

 

瓦は、この粘土を機械で練り上げ、一枚一枚手作業で型板にはめて作製。 それを4~5日天日で乾燥させてから瓦焼窯(3m×5m)で焼き上げて完成させていました。
瓦を焼き上げる松枝の真黒い煙が終日天に昇っていました。

工場は東部町内、現在の石川錦一氏と石川広司氏の二カ所にあって、盛大に行なわれていましたが、 現在ではもう製造されていません。

 

土臼 (とおす)


土臼とは、稲穂の籾(皮と米)を砕き、殻と米にする農機具のことです。
かつて平針は愛知郡だったのですが、その愛知郡の中で「土臼」といえば平針産だったのです。

 

原材料はやはり良質の粘土。
これは土を発掘するのではなく坊主山の天然粘土(四季の凍結の繰り返しにより粒状になったもの) を使用しました。それに塩およびニガリ、水を加えて適当に練ったものを 直径1 厚さ  程の竹籠状の枠に入れ、樫の木で造った厚さ2 程度の薄い板を打ち込んで製造していました。

 

最近では機械化が進み、この農機具自体がもう見られなくなってしまいました。

現水谷電気店の先代重五郎さと隣家の和さが製造していましたが、昭和二十五年頃に中止となってしまいました。

 

その他


産業と呼ばれる程の規模ではないにしろ、あるいは「名産品」と称せられるほど特徴的ではないにしろ、 かつての平針には数々の物品製造がみられました。

 

竹細工 … 一軒
建具 … 三軒
豆腐 … 一軒
パン … 一軒
ういろ … 二軒
あんまき … 二軒
まんじゅう … 二軒
練炭 … 一軒
麹(こうじ) … 一軒
清涼飲料水(ラムネ・ミカン水・サイダ-) … 一軒

 

しかし、現在ではそのほとんどが製造されていません。