〜異世界〜


不思議な子たちがいる。彼等彼女等は徒党を組んでいるわけではないが、それぞれに他のクラスメートとは明らかに違うオーラを発しながら、教室の中にいる。

一昔前なら「お客さん」とあだ名されたのかもしれない。つまり、彼等彼女等は、クラスの何にも参加せず、ただ存在しているだけなのだ。邪魔もしない、いじめられもしない、反抗もしない、暗くもない、勉強は何もしない。

1年の2学期後半で、もう脱落傾向。そもそもアルファベットが満足に書けないのだ。漢字も山・川あたりまで。作文は書くのだが「ああ、漢字1個もな〜い」とニコニコして提出する。ようするに低学力なのだが、障害があるわけではない。

授業はその子たちに合わせるわけにはいかないから、普通に進行。担任の先生は副教材のワークブックなどで面倒を見ている。しかし理解するための努力がそもそも面倒のようで、ワークブックをペラペラとめくっては、「わーこんなにもたくさん、終わらんじゃん」 とあっけらかん。

せめて提出物だけでも出すことを覚えてほしいから、「答えを正しく写して『答えを写しました』と書いて出しなさい」と言っても、それすらできない。未提出者を書き出して教室に貼り出しても恥じ入る様子はなく、脅しもすかしも効き目はない。クラスメートが先生の難儀を見かねて「出せよ」と励ましてくれても「半分なら…」とはなからやる気がない。まるで異世界の住人だ。

その異世界の住人の1人がある日、珍しく大張り切りで登校してきた。「オレさー昨日ノート買ってきたんだ! 先生、ノート持ってきましたッ」。今までノートすら持ってなかったのかと教室中がシーンと静まってしまった。

一昔前まで、こうした『お客さん』は、クラスに1人いるかいないかだったのだが、今では各クラスに数人いる。彼等彼女等は恐らく何に対しても向き合っていない。

(J)

2008.2.18発行 KID'S倶楽部 Vol.165