ヒューマンスクランブル 第300回


平針の二宮敏子さん

飾り続けて45年 健康願うひな人形

「明かりをつけましょボンボリに♪」。とは言っても、昨今、ひな人形を飾る家庭が少なくなったと聞く。
女の子のいない家でも、ひな人形をはじめ、五月人形などあらゆる人形を飾る。それを愛(め)でて各家庭うを回り、ひな菓子をもらう習慣を「ひなあらし」と呼ぶ。そんな地方で育ったものには、寂しい現代のひな祭り・・・。
ところが45年間、1年を除いて毎年、この季節にひな人形を飾っているのは、平針の二宮敏子さんだ。
「娘が生まれたとき、在所から贈られたものです。当時、ひな飾りをする家庭は少なく、私自身も持っていなかったのですが、それからは、毎年飾っていますよ」と言う。
写真でも分かるように、「御殿飾り」と呼ばれる立派なものだが「当時の主流で、金屏風になったのは、その後」とか。
ひな段を作ったのは、大工だったという二宮さんのご主人。娘さんが小さいころは二宮さんが飾っていましたが「娘は小学校高学年になったときくらいから、自分で組み立てて飾っていましたよ」と笑顔。
ひな人形を飾り付け、当日は“おこしもの”を作ったり、ハマグリの吸い物やちらしずしなどを作って祝った桃の節句。娘さんが嫁いでいった後は、料理を作って祝うことはしなくなったものの、毎年飾り付けるのは、二宮家の伝統行事。
「今も、飾り付けをするのは、娘。この時季になると、飾りに来るんですよ」。母娘の絆(きずな)は、父娘より強いと言われるが、二宮家では格別のようだ。
親子関係がとやかくいわれる現代。ひな人形によって二宮家の母娘関係の秩序は永遠に守られる。“飾られている人形”が二人を見守っているようで、その空気が心地好い。

2008.2.11発行 紙ひこうき Vol.320