《IT土方》


知人の青年が「僕ら、IT土方ですから」と言うのを聞き、小泉構造改革の陰を見る思いがした。

小泉改革に限らず、およそ構造改革とは、言い換えれば利権構造の改革だ。小泉さんはいわゆる土建利権を削ぐために公共事業を減らした。それは結構なことだとは思うのだが、その結果、巨大ゼネコンがマンション建設まで手を出すようになり、地元の土建業者の衰退を招いた。また競争入札でゼネコンが安く落札した仕事を、さらにピンハネしたうえで地元業者に丸投げするものだから、地元業者はデフレで苦しみ、さらなる衰退を招いてしまった。良いものを作るには金が掛かるのが当然だから、安かろう、悪かろうにならぬことを祈るばかりだ。

地元土建業者の衰退は実は由々しき問題なのである。まず第一に国家のインフラの補修整備能力が低下する。他の要因もあるのだろうが、高山線の回復には約3 年も要した。また、重機を持った技能集団の消失も大きい。例えば雪国では、彼らが高能率で除雪していることを考えると、まことに大きな損失だということがわかる。

かつて大恐慌克服のためにF・D・ルーズベルト大統領が行なったテネシー渓谷開発事業に見られるごとく、もともと土建事業は失業対策の意味合いが濃い。構造改革は巷に土木従事者を含めた失業者をあふれさせたが、その振り替え先として政府はIT産業と介護産業を推し進めた。

土建関係日雇い仕事を手配していたのは『手配師』だが、IT従事者は『人材派遣業』によって仕事を手配されている。このように職を斡旋する仕事は、本来素人を集めてきて素人でもできる仕事を斡旋してきた生業。従って実際には高い技術を持っているとはいえないIT従事者も現れ、良質とはいえない人材派遣にかかれば、プログラマーなど技術を持っている人も低賃金など素人同様の労働環境の中で働かざるを得なくなっているのだ。またそうでなくとも、IT従事者には長時間など過酷な労働条件がつきまとっている。

『土方』は今では差別語であり放送禁止用語だ。しかしIT従事者が自虐的に使う『IT土方』は彼等の待遇を言い得ている。ちなみにセキュリティの人は「ITガードマン」を自称してるらしい。

2007.11.7発行 エコノミスト●なごや Vol.32