棄老国 きろうこく


昔、インドに棄老国という老人を捨てる国がありました。

その国に「いかに掟とはいえ、どうしても捨てられない」という若者がいました。若者は、年老いた父親を深い洞穴にかくまっていました。

ある日、巨大な隣国が難問をもってきました。答えられない時は占領してしまうと言うのです。

「象の重さの計り方は?」

「蛇の雄雌の区別は?」

「真四角な板の根はどちらか?」

みんな困ってしまいました。

若者は洞窟の中で隠れ住む父親に尋ねました。父親は簡単に

「船に乗せて、沈んだだけの石に換算すればわかる」

「やわらかい布に乗せて、騒ぐのが雄」

「水に浮かべて、沈む方が根」

と答えました。

最後の質問は

「同じ形の母子の馬がいる。見分け方は?」

というものでしたが、老いた父親はその難問にも

「草を与えれば、母馬は子に与える」

と、いとも簡単に答えてくれました。

隣国は退却し、父親も穴から出て、老人は大切にされる国になったそうです。

———心配なこと。

人間もそっくりな母子がいて、区別しろといわれたとき、「先に食べるのが母親」だったらどうしようかと。

(哲地蔵)

2007.8.20発行 KID'S倶楽部 Vol.159