棄老国 きろうこく
2007-08-20 17:38:57
昔、インドに棄老国という老人を捨てる国がありました。
その国に「いかに掟とはいえ、どうしても捨てられない」という若者がいました。若者は、年老いた父親を深い洞穴にかくまっていました。
ある日、巨大な隣国が難問をもってきました。答えられない時は占領してしまうと言うのです。
「象の重さの計り方は?」
「蛇の雄雌の区別は?」
「真四角な板の根はどちらか?」
みんな困ってしまいました。
若者は洞窟の中で隠れ住む父親に尋ねました。父親は簡単に
「船に乗せて、沈んだだけの石に換算すればわかる」
「やわらかい布に乗せて、騒ぐのが雄」
「水に浮かべて、沈む方が根」
と答えました。
最後の質問は
「同じ形の母子の馬がいる。見分け方は?」
というものでしたが、老いた父親はその難問にも
「草を与えれば、母馬は子に与える」
と、いとも簡単に答えてくれました。
隣国は退却し、父親も穴から出て、老人は大切にされる国になったそうです。
———心配なこと。
人間もそっくりな母子がいて、区別しろといわれたとき、「先に食べるのが母親」だったらどうしようかと。
(哲地蔵)
2007.8.20発行 KID'S倶楽部 Vol.159