秘密基地


R君の住む街のはずれには、川が流れている。学区の境界ぎりぎりに流れるその川には、片側2車線の割と大きな橋がかかっていて、その近くにはちょっとした森林を備えた公園がある。その公園はR君たちの集合場所で、用事がなくても公園に行けば誰かに会える。公園の森にはサッカーボールが隠してあって「何して遊ぼうか?」と、ボールを蹴りながら作戦会議をするのが日常だった。雨が降ってきても、近くの橋まで行けば楽しい雨宿りができる。

8月の中旬、夏休みに何の予定もない子たちが「家にいると勉強をやらされる」と言う理由で、R君を含めた5人が集まっていた。あやしい雲行きの中、いつも通りボールを蹴りながら作戦会議。会議をしていると日が暮れる、と言う事がほとんどなのだが、その日は雨が降ってきて大騒ぎで橋の下に非難した。

雨宿りをしながら、みんなしゃがみこんでコンクリートの地面を木の枝でほじくる。「ねぇ、何して遊ぶ?」と全員が一通り言い終わった頃、誰かが「秘密基地つくろうか」と言いだした。

この「秘密基地つくろうか」発言には、全員がくいついた。「どこにつくる?」「屋根とか壁はどうする?」と、どしゃ降りの雨の橋の下で、秘密基地の構想が練られた。「この雨、ゲリラ豪雨だからすぐやむよ」「じゃ、やんだらすぐに始めよう」。
小雨になると、すぐに行動開始だ。公園にある森林から枝払いされて放置されたものを拾ってきたり、公園のゴミ箱から使えそうな資材を集めて、橋の下に集結させた頃、日が暮れた。

「明日また組み立てようぜ」と、公園で汚れた手を洗いながら解散した。次の日、みんなで公園で拾った葉っぱのついた大きな枝を組み上げ、ペットボトルで監視窓までつけた立派な秘密基地が橋の下に完成した。「橋の下だから屋根なんかいらないんじゃない?」などとは、誰も言わない。もちろん、屋根がなければ秘密基地は成立しないからだ。5人の子ども達がギリギリ入れる広さの秘密基地の中は、ものすごい熱気と湿度だった。おまけに、なんか臭い。それでも、誰一人として秘密基地を離れようとはしなかった。

一生の思い出になったであろうその秘密基地は、一週間ともたなかった。木の葉はしわしわにしおれてしまってスキマだらけの半壊状態。中に蚊や見たことのない虫が住みつき始めると誰も寄り付かなくなり、新学期が始まる頃には人知れず撤去されてしまっていた。

KID'S 倶楽部 Vol.194 小学百景