億劫な夏休み


T君は小学4年生。母子家庭のT君は、夏休みのほとんどを祖父母の家で過ごす。これがまた、退屈で仕方がない。

まず、朝。夏休みであろうとも、おばあちゃんは朝寝坊を許さない。「マンガ(テレビアニメ)が始まったよ!」等と見え透いた大嘘でT君はたたき起こされて、朝ご飯を食べさせられる。T君には朝ご飯を食べる習慣がないので、これがまた面倒なのだ。「朝ご飯はいらない」なんて言おうものなら、「アンタのお母さんは、朝ご飯をつくってくれんのか」と母親の悪口が始まってしまうし、ご飯を残すと「体調が悪いのか」と大袈裟に心配されるのが面倒くさい。食べたくなくてもガマンして飲み込むところから一日は始まる。

朝食が済むと「宿題をしなさい」が始まる。T君は毎日30分以上は無駄な抵抗をするが、最終的におばあちゃんは「オヤツあげないよ!」と言って宿題をやらせようとする。正直なところT君はおやつなんかどうでも良かった。しかし、この「オヤツあげないよ!」はおばあちゃんの最後の手段らしく、「オヤツなんかいらない」などと言おうものなら、おばあちゃんは半狂乱になって泣き出してしまうのだ。T君は毎日、釈然としない思いでおばあちゃんの監視のもと、宿題をやらされる。

しかし、本当の地獄はここから始まる。ヒマでしょうがない時間がやってくるのだ。おばあちゃんの家のテレビにはテレビゲームはついていないし、携帯用のゲーム機をやっていると「そんなのやってるとバカになる」と、とにかく邪魔され続ける。じゃぁ外に出てセミとりにでもしようかと思っても、一人で外出する事は許されない。必ずおばあちゃんと一緒じゃないと、公園に行くことさえ許してもらえないのだが、おばあちゃんは一日中いそいそと家事で忙しそうだ。ようやくおばあちゃんの手が空いて、公園に連れて行かれて「さぁ遊びなさい」と言われても…T君は一人で遊具で遊び続けられる年ではない。結局は買ってもらった1冊のマンガ雑誌を数十回も読み返しながら退屈するハメになるのだ。

何も与えられず一人で「静かにイイ子にしてなさい」なんて、罰ゲームに他ならない。しかし、おばあちゃんに悪気はない事はわかっているし、「夏休みに面倒をみてもらっている」という負い目を感じているT君は、文句を言うことはしない。だから、T君がおばあちゃんの家に行きたがらなくなった理由を、おかあさんは全く理解できずに不思議な顔をする。

KID'S 倶楽部 Vol.192 小学百景