万引き


その日、中学二年生のK男は、ほとんどの生徒が下校した後の職員室の別室で、担任の先生と教育主任の先生と向かい合って座らされていた。と、言うのもスーパーマーケットで万引きが見つかって、「学校側で厳重に注意して下さい」と学校に連絡されたのだ。

万引きしたのは、どうって事のないガムやらお菓子やら。怖い形相で睨みつける教育主任の隣で、担任の先生が「どうしてそんな事をしたの?」等と聞いてくる。

K男にしてみれば、どうしてもこうしても無い。成功すると面白いからやったのだ、何て答えられないだろう。逆に、どうしてそんな事を聞くのだろうと思ってしまう。とにかくここは下を向いて沈黙するか、小さな声で「はい」と答えておくことに決め込んでいた。

しばらくすると、先生達の態度が明らかに「めんどくさいなぁ」というものに変わってきた。そろそろ解放してもらえるかな、というK男の読みは的中した。

家に帰ると、働いている両親にも連絡が入っていた。とりあえず、父親に頭を派手にはたかれ吹っ飛んだ。離婚するだのしないだのと言っていた両親が珍しく同じテーブルにつき、K男の事件について話し合った。

とは言っても、母親はこの世の終わりのような嘆き様。結局、父親としかまともな話はできなかった。
「でも、早いうちに見つかって良かったな。バレなかったらどんどんエスカレートしていって、取り返しのつかない事になってたかもしれないぞ」と父親は締めくくった。

父親も、かつて同じ経験をした事があったのだろうか。K男の心理を一番理解してくれているのは父親だとK男は思っているのだが、高校に上がる頃には一緒にいられなくなるかもしれないと思うと、心が曇るのであった。

KID'S 倶楽部 Vol.189 中坊白書