携帯電話


K男はこの春から中学二年生。一年生のうちに学校にも慣れて、新しい友達もたくさんできた。

K男には、どうしても欲しいものがあった。自分専用の「携帯電話」だ。

まわりの友だちは皆が携帯電話をもっている。こればっかりは、タンスのへそくりをくすねたって買う事はできないし、お婆ちゃんやお爺ちゃんにねだってみても手に入れる事はできない。
いかにお母さんを説得するか…それが問題だ。

友だちに「どうやってケータイを買ってもらったの?」と聞くと、「最初は塾のお迎えに必要だったから」とか、「別にお願いしてないけど、買ってくれた」というこたえがかえってきた。

K男の家では、考えられない話だ。
塾のお迎えが必要な時にはお母さんのケータイを持たされていたし、お願いしなくても携帯電話を買ってくれるような親切な親なんていない。

お母さんにお願をする時に一番困るのは「何で?」と聞かれる事だった。絶対に聞かれると思うけど、正当な理由がない。欲しい理由は山ほどあるのに、説得力のある理由がみつからない。
「みんなもってるから」では説得力がないだろう。学校からは「携帯電話は悪」みたいなプリントも配られたりしていたし…。

考えていても仕方がない。夕方、お母さんが家に帰ってきたら、とにかく交渉してみよう。
その日、K男は思いきって、お母さんにお願いしてみた。

K男が「お母さん! ケータイが欲しい!」と言うと「あれ? K君、ケータイとか興味あったの?」とお母さん。「うん、みんな持ってるし、自分専用のケータイが欲しい!」とK男。門前払いを食らうかと思いきや、「わかったよ、今夜お父さんとお話してみるからね」と嬉しい返事がアッサリとかえってきた。

拍子抜けしたK男が「え? いいの? ダメじゃないの?」と聞くと、「お父さんと『自分から欲しいって言い出したら買ってあげよう』って話してたんだよ。今時の子はケータイくらい使えないとダメだってお父さんも言ってたよ。たぶん、買ってくれるよ」。K男は「やった! 絶対悪い事に使わないからね!」と大喜びした。

子ども達は私達が思っている以上に、携帯電話の怖さを理解しているのかもしれない。

KID'S 倶楽部 Vol.189 中坊白書