お土産の悲劇


トミさんは78歳。早くに旦那さんを亡くし、それ以来、十数年間一人暮らしを続けている。

トミさんには娘が2人と息子が1人いる。
それぞれに子どもがいるが、その孫たち全員が既に成人しており、トミさんの家に顔を出すことは少なくなっていた。
ところが、長女に孫が誕生してから、トミさんは「ひいお婆ちゃん」「大きいお婆ちゃん」などと呼ばれるようになると、長女と孫が曾孫を連れて姿を見せるようになった。

トミさんは、最初は大いに喜んだ。誰の子でも赤ん坊は可愛いものだし、何よりも離れていってしまった孫が顔を見せるようになるなんて、もう無いと思っていたからうれしかった。

ところが、である。
孫が小さなうちはトミさんにも子どもを可愛がる元気があった。しかし、曾孫の相手となると疲れて仕方が無い。
孫の嫁に気を使い、自分の娘にも気を使わなければならないのだ。気力も体力も使い果たして、曾孫の帰った翌日は布団から出られなくなってしまう。

娘や孫には、なるべく寄り付かないようにと遠まわしに伝えているつもりだが、これがなかなか伝わらない。
事ある毎に顔を出す長女一族であった。

冬の寒い日の出来事である。
長女が孫をつれてくると聞いた長男が、久しぶりに顔を出した。とは言っても、長女達の帰る直前に少しだけ。

長男は「ばぁさん、土産を冷蔵庫に入れとくぞ」と言ってゴソゴソと冷蔵庫に土産をつっこむと、久しぶりにみる赤ん坊を可愛がりはじめた。しばらく話をしたかと思ったら、長女家族に連なってゾロゾロと帰っていってしまった。

一気に静かになった家の中でトミさんは大きなため息をつく。賑やかで楽しいのだが、疲れる。
ひと通り部屋を片付けると、長男がもってきた土産の事を思い出した。

長男が勝手に冷蔵庫に入れたので、何を持ってきたのか知らずにいたのだ。
冷蔵庫を開けてみると、中には高そうな包にくるまった「カキ」が入っていた。トミさんの大好物だ。

トミさんは、さっそく1人用のカキ鍋を作ると、ビールを飲みながらペロリとたいらげた。

布団に入って、ウトウトとしかけた頃に悲劇が始まった。

急な吐き気と悪寒に腹痛。トイレに行こうと立ち上がるも、その場で崩れて嘔吐してしまった。
カキにあたってしまったのである。何とか動こうとするが、動くと水下痢が止まらなくなる。さらに、頭痛まで襲ってきた。

トミさんは「この姿を人に見られるわけにはいかない」と真っ先に考えた。
助けを呼ぶなんてとんでもない。押し殺した唸り声をあげて苦しみながら「この状態では絶対に死ねない!」と、耐え続けた。

眠ったか気絶したかは定かでない。
しばらくして我にかえったトミさんは、体力は消耗していたもののケロリと元気になっていた。

ヨタヨタと動きながら自分の粗相を片付けながら、「死にたくない」と願った自分を思い出し、声をだして笑ってしまった。

2010.03.25 発行 み・まも~る4月号 Vol.35