趣味を探して


久男さんは70歳の一人暮らし。仕事仕事で結婚もせず一人で老後を向かえている。

それなりに友人はいたが、顔を合わせると孫や曾孫の話を延々と聞かされるようになってから、疎遠になってしまっている。定年退職後もつい最近まで警備や交通整理のアルバイトをしていたが、この不況で辞めざるを得なくなってしまった。

アルバイトはお金に困ってしていたわけでなく、定年退職後に退屈で暇を持て余していたからという理由だった。
警備や交通整理のアルバイト先は、外に立っている事さえ苦にならなければ快適な職場だった。まわりは久男さんの年齢を知って気を使い続けてくれるし、サボっていても決して叱られる事もない。気が乗らない日はもちろん「ちょっと今日は体調が・・・」と、電話一本するだけで快く休ませてくれた。

アルバイトを辞める時は(リストラ・派遣切りのようなものだったので)「本当に申し訳ない」と頭を下げられた。久男さんは立ち仕事が苦になりはじめていて、辞めようかと考えていたところだったのでちょうど良かった。

定年退職後のアルバイトで一緒に辞めた仲間達は、変なのが多い。例えば、朝から晩までパチンコ店で過ごしていたり、聞いた事もない宗教にハマってしまって全財産投げ打ってしまっていたり、だ。

一人きりになって暇を持て余してしまうと、そうなってしまう人の気持ちもわからなくもない。でも、仲良くしていると兎に角誘われて困る。何か自分の趣味を持たなくては、と久男さんは考えた。
本屋にヒントがないかと、その類の本を立ち読みしてみても、趣味の紹介には「仲間ができました」「仲間と楽しく」といった文言が記載されている。久男さんは人と付き合うのが嫌いで、最初から最後まで一人で楽しめる趣味を探した。

どれだけ探しても、これというものが見つからない久男さん。近所を散歩しながら、同年代の人たちは何をしているのか、あるいは街に出て最近の若者は何をしていいるのか、自分にも楽しめるような事はないかと、趣味にできそうな事を探した。

そうしているうちに、休憩に立ち寄る喫茶店の常連客になっていて、馴染みの店員には声をかけられるようになった。いつも通う本屋では、新人アルバイトをからかって遊ぶようになった。そんな毎日を過ごしていると、趣味を探しに外出したという事さえ忘れてしまう日もある。そんな日は、「これで満足してはイカン!」と久男さんは気を引き締めて眠るのだ。

死ぬまで楽しめる趣味をじっくりと探してやろうと街中を散歩してまわる事が趣味になっていることに、久男さんは未だに気がついていないのだった。

2009.12.25発行 み・まも~る1月号 Vol.32