挑戦状


R君は中学生になった。
入学すると、まず最初に、生徒手帳に記載されている校則を読み合わせ、教えられる。「金髪にしてはいけません」とか「スカートの丈は」とか、そういう類のものだ。

その中で「自転車通学は禁止です」という内容があった。指導係の先生が「まぁ、1回も自転車から降りずに学校にこれたら許してやるけどな」と笑いながら言った。R君の目が光った。R君にとって、これは『挑戦状』だった。

指導係の先生がそう言ったのは、中学校が山の上にあるからだ。ものすごい急激な坂を200メートル以上も登らなければたどり着けない場所にあり、普通に歩いてもヒーコラとなってしまう地獄の坂。自転車で1回も降りずに登頂できるなんて考えもしなかったのだ。

R君は、自宅から信号に1度も引っかからない通学路を探した。毎日、学校が終わるとどこまで自転車を降りずに行けるか、実際にやってみた。学校のある山の手前までは難なくいけるが、坂が始まると、いくら助走をつけてもせいぜい20メートルくらいしか登れない。力尽きて足をついてしまうのだ。

一か月もしないうちにR君は挫折してしまった。というより、遊ぶのに忙しくて挑戦することを忘れてしまった。

月日は流れて、R君は3年生になった。何でもかんでも逆らいたくなる反抗期で、イタズラをしては先生に叱られる毎日だった。

そんなある日、友達が自転車通学をしている事が発覚し、職員室に親まで呼び出されているのを発見した。聞いてみると、山のふもとまで自転車できて近くのアパートの駐輪場に勝手に自転車を止めているという事だった。

R君はその話を聞いて、かつての自分の挑戦を思い出してしまった。その日の放課後、R君は自転車にまたがって、2年前に見つけた通学路で、自転車から1回も降りずに学校まで行けるか挑戦してみた。2年前とは違い、たくましくなっていたR君は好感触を得た。

翌日、R君は自転車にまたがり、1回も自転車を降りずに登校する事に成功した。
みんなの注目を浴びながら、そのまま自転車から降りずに職員室の窓際へ。「先生!1回も降りずにきたよ! ドコに駐めればいい?」と叫んだ。

職員室の先生隊は目をまるくして、数人の先生が慌てて出てきてR君を取り囲んだ。
「自転車通学は禁止だ」
「何を考えてるんだ」
「先生を挑発しているのか」
とR君は叱られた。

R君は「一回も降りずにだったら、自転車で来てもいいって言ったじゃん!」と主張すると「そんなバカな事を言うはずがない!」と叱られる。言った、言わないの水かけ論は「お母さん呼ぶから」という先生の一言で終わらされた。

先生たちにさんざん叱られた後、「先生が2年前に言った事なんか覚えてるわけないじゃない・・・」とため息混じりに母に悟された。

KID'S倶楽部 Vol.183:中坊白書