じぃちゃんと夏休み


夏休み。Y君は毎年、夏休みのほとんどを田舎の祖父母の家に預けられる。前半は母方の、後半は父方の、といった具合だ。

祖父母の家の近所には従兄弟たちも住んでいて、K君は夏休みが楽しみで仕方がない。
何より楽しみなのはカブト虫をとる事だった。おばぁちゃん畑で作ったスイカを食べ、食べ残ったカスを畑の端っこに穴を掘って捨てる。そうしておくだけで、夜のうちにカブト虫が飛んできてスイカのカスにへばりついている。明け方に穴を覗きに行って、カブト虫を捕まえるのだ。

祖父母の家についた初日は、大きなスコップで畑に大きな穴を掘る。
じぃちゃんは絶対に手を貸さない。「じぃちゃん、このぐらい掘っておけばいいかなぁ?」とY君が聞くと「そんな小さな穴じゃぁあかすかぁ」とじぃちゃんは笑い飛ばし、もっと深く掘る様に指示を出す。「くっそー」と言いながらY君は穴を掘るのが楽しくてしかたない。

いよいよ穴の中にスイカのカスが投入されると、Y君とじぃちゃんのカブト虫とり対決の始まりだ。「ちゃんと自分で起きてとりに行くだぞ。じぃちゃんと競争だ。」というルール。明け方にじぃちゃんはムクリと起き出し、穴をチェックしに行く。

Y君は当然のごとく起きられない。じぃちゃんはカブト虫を発見すると、Y君を起こしてやりたくて仕方がなくなるが、まともに起こすとばぁちゃんにひどく怒られる。じぃちゃんはY君が起きるように、わざとゴソゴソ音を立てて無意味な活動する。その音で起きたY君は、あわてて畑の穴を見に行ってカブト虫をとるのだ。

Y君は、今日は何匹とった、こんな大きなのがとれた、と、じぃちゃんに報告するが、じぃちゃんの方が必ず一番大きなカブト虫をとっている。「この、じぃちゃんのとった一番でかいヤツは、Y君にあげよう」と、必ず自慢した後でじぃちゃんはY君にカブト虫を渡す。「ありがとう。じぃちゃん、すげぇなぁ」とY君。

夏休み、Y君を一番楽しませてくれるのはじぃちゃんで、じぃちゃんを一番楽しませているのはY君なのである。

KID'S倶楽部 Vol.182:小学百景