通知表


1学期も終わりに近づいてきた頃、学校の先生たちは終業式の日に渡す通知表を作り始める。その通知表を作るのに、英語のS先生は悩んでいた。

通知表の成績は5段階。成績が優秀な子は「5」の評価で、成績の悪い子には「1」の評価が付けられるお馴染みのシステムだ。昔と違うのは1~5の他に「評価不能」という成績がつけられるケースが増えている事。
「評価不能」は今時珍しくなくなった不登校の生徒などにつけられるもので、「姿を見た事もないのに評価できません」という事だ。

S先生の受け持ちのクラスには、他の先生たちから優等生と呼ばれる子もいれば、早弁するわ授業中に抜け出すわ白紙答案を出すわという横着(おうちゃく)をアピールするF君がいる。横着をするわけではないけれど、授業に全く身の入らないTちゃんもいれば、不登校のO君もいる。

テストの成績などの基準に沿ってつけていけばいい話なので、S先生は通知表をつくる時にそれほど悩んだ事はなかった。ところが今回、不登校のO君の父兄から担任の先生に一本の電話が入ったそうだ。不登校の生徒につけられる「評価不能」という成績はつけないでくれ、という内容で「最低ランクの1でいいから付けておいてくれ」という。そして、その担任の先生は承諾してしまった。

終業式も近くなった頃、「センセー、オレ成績上がってるかなぁ」と横着者のF君がS先生に話しかけてきた。「白紙でテスト出してて、成績が上がるわけないじゃないの」とS先生がこたえると、「ちぇー。でも(不登校の)O君よりはイイはずだよなー。俺、ガッコには来てるもん」とF君が言いだした。一瞬、S先生は言葉に詰まったが、「さぁて、どうかなぁ~?」と冗談めかして言うと、「うっそー、まじでー?」とF君は楽しそうに悔しがった。

その場はそれで済んだものの、横着者F君と不登校O君を同じ成績にしてしまっていいものだろうか? と、S先生は悩み始めるのであった。

KID'S倶楽部 Vol.182:中坊白書