人気の先生


どの学校にも生徒に人気の先生はいる。同様に、生徒の保護者に人気の先生もいる。

とある日、A子の母親は保護者会に出席した。A子の体育を教えている女のS先生は面白い。保護者会の議題に入る前には場を和ます冴えたジョークが飛び出すし、会議中に思い空気が漂う場面でも、サッと話題を変えてみたり、保護者の中では人気の先生だ。

しかし、A子はそれが気に入らない。その日の保護者会が終わり、A子の母は帰宅して夕食の支度をしていると、「今日の保護者会、どうだった?」とA子が聞いてきた。議題の話をした後に、「S先生って面白いね」と付け加えた。
会話が止まってしまった。A子の母は「あれ?」と思い、水道を止めてA子に目をやった。A子が何とも言えない顔をして口を尖らせていた。

「S先生って、お母さん達には評判いいんだよねー。」とA子。「S先生って、そんなに生徒に厳しいの?」と聞くと「別に厳しくはないよ」。「S先生は生徒が嫌いなのかしら」と冗談めかして言ってみると、「体育ができる子は大好きみたいだけどねー。私にはフンッて感じだよ。」

A子は体育だけは唯一の苦手科目だった。「授業が始まると、まず『できる子チーム』と『できない子チーム』に分けられちゃうんだよ。私、できない子チーム代表。」
「そうかー。でも、ある程度はしょうがないんじゃない?」
「まぁ、そうなんだけどね。」と言って沈黙してしまった。

「何がフンッて感じなの? 小学校の時もチーム分けされてたけど、楽しくやってたじゃないの」と言うと、「この前ね、マットと跳び箱やったんだけどね、できない子チームに『まずやってみて』って言うからやったのね。そしたら、私できたの!」と堰を切ったように話しだした。「あら、よかったじゃない」と言うと、「そしたらね、『何だ、できるんじゃないの』って、すごく意地悪な目でつぶやいたんだよ! あの先生、キライ!」

きっとチラリと覗かせたS先生のホンネなのだろう。子ども達は敏感で、何も見て無いようで何でもしっかりと見ているのだ。A子はキライなS先生に母が騙されている、と感じ、それが悔しかったのだろう。

A子の母は「人によって態度を変えてしまう人っているもんね」と答えるのが精いっぱいだった。

KID'S倶楽部 Vol.181:中坊白書