育て直し


乳児期の体験が、人間のその後の育ちに大きな影響を及ぼす事を私たちは肝に銘じなければなりません。

お腹がすけばミルクをもらい、おむつが汚れて不快な時は替えてもらう。こうした「要求を満たす」ことと「スキンシップ」が乳児期の二本柱で、この二つの体験が満たされることにより、人間は「安心感」と「信頼感」が培われるのです。

よく「三つ子の魂、百までも」といわれますが、「いくつ」と数えられる時期をきちんと越えないと難しいものがあります。つまり子どもが「九つ」になるまではしっかり手を掛け、目を掛け、愛情を注いで育てなければならないのです。

お母さん自身も親にわだかまりがある場合は、自分の子どもを甘えきらせる事が不得意です。思春期に荒れている子はこの時期に満たされていませんから、本当なら乳児期に戻って「育て直し」をするのが良いのです。

しかし思春期の子にまさかおっぱいを与えるわけにはいきませんので、背中をさするとか耳掃除をしてあげるとか、違った形でのスキンシップをすると良いでしょう。

思春期の入り口である小学校の高学年の子どもは、大人と子どもの間を行きつ戻りつしてますから、戻った時にしっかりと受け止めてやってください。

こどもが「やってー」と言ってくれた時がチャンスです。「もう○歳だから」なんて言わないで下さい。園児は理屈ではないので、あからさまな子は保育士の胸を触ったりしますし、遠慮がちな子は背中に身を摺り寄せてきます。そうした甘えの要求をがっちり受け止めるのが私たちの仕事です。

自分の訴えを暴力でねじ伏せられてきたり抑圧されてきた子は、親に対して不信感や恨みを抱いて反発します。

お兄ちゃん役お姉ちゃん役を刷り込まれ、ずっと「良い子」でいなければならなかった子は「助けて!」が言えません。

また人にはバンバン言うのに自分が言われるといっぺんにシュンとしてしまう「言われ弱い人」も、心に親からの愛情の蓄えが少ないようです。こういう人は自分が有利になっていないと不安ですからいつも先制攻撃をかけてきます。

いずれにせよ、その人にとって足りなかった事をどこかでやり直さなければ、不安定なままで積み上げてきていますから、どこかで崩れてしまいます。また、どこかで吐き出さないと背負っているものは軽くなりません。

自分はどうして欲しかったのかを自覚するところから始めて、「育て直し」は今、大人でも試みられています。

KID'S倶楽部 Vol.175:幼年図鑑