介護はいつから誰がどこで?その2 見栄と体裁


 枡添厚生大臣は、ご自身の経験から「要介護4以上は病院を含めた施設介護が必要」と語っている。要介護4とは、先月号でご紹介したごとく「食事・排泄・衣類の着脱のいずれも全面的な介護を必要とする」状態である。しかし「必要」であっても、そこには介護される側、する側の双方に「見栄と体裁」という大きな壁がある場合が多い。
 名古屋市内に住むA子さん。市内といっても地付きの家ばかりのこの地域では「嫁が看るのが当たり前」という風潮が強いので、施設に預けでもしたら近所や親戚からボロクソに言われてしまう。ご主人もやはり当たり前のように「お前が看ろ」というので、姑の介護度など調べてもらうこともなく、お世話に明け暮れている。ただひとつの救いは、往診してくださるお医者様が近くにいること。この老先生が引退したら、何を言われても病院か施設にお願いしようと考えている。
 一方、高齢者夫婦のBさん。奥様が持病を抱えていて家事はできない。Bさんは「男子厨房に入るべからず」の世代だから家事能力はゼロだ。息子さん夫婦は東京で仕事を持っているし、嫁いだ娘さんはご主人の親と同居だから、一緒には住めない。幸い経済的に恵まれているので、Bさん夫婦はマンション式の高級老人ホームに入所した。医療スタッフも常駐で、もちろん介護も三食も付いている。しかしBさんは満足せず、娘さんに毎日来ることを強要。食事代も月数十万円の入所費に含まれているのに、昼食と夕ご飯を作らせるのだ。そして来る時間も決められていて、必ず入所者が一階のロビーに集っている時間。そうじゃなければ「意味がない」とBさん。意味とは「自分たち夫婦は子どもから見捨てられたわけではない」という見栄だと娘さんはため息をつく。
 重介護や過酷な介護が家族の負担であると公が認定したからこそ、介護保険や介護法が制定されたのだが、人間の心の切り替えはなかなか進まない。

2007.11.25発行 み・まも〜る12月号 Vol.7