闇に光を! 「サン・ヘアー中部」代表 上野和彦さん


闇に光を! 「サン・ヘアー中部」代表 上野和彦さん

人の苦しみなんてわからない。外傷はもちろんのこと、心の痛みなど、絶対にわかるはずがない。が、同じような経験をした者なら…。

荒池の上野和彦さん(58)は、幼い頃、いろりに落ちて左側前頭部をやけどした。紙は燃え、ケロイド状になった。そして「コッパ!(上野さんの故郷新潟では、はげをこう呼ぶ)」と毎日いじめられたという。
自殺すら考えたこともあったが、上野さんは恩師の勧めもあり、理容師になった。そして、熱傷医学の先駆者、故井沢洋平先生と出会う。「医者はやけどの治療はできても、心の傷は治せない。髪の悩みは深刻だ。その人に合ったかつらを作ってあげたら、苦しみも減る」。

1975年、名駅にヘアクリニック「サン・ヘアー中部」を開設した上野さんは同年、頭髪を失った人の相談にボランティアで応じる「日本熱傷ボランティア協会」を設立した。
同サロンには多くの人が訪れたが、(閉じこもり、外に出られない人のためには)出張もいとわず、相談に応じてきた。こんな“手間”をかけられるのは、何よりも上野さんが“患者”の痛みを分かるから。
相談に応じ、作ったかつらは何と約5000人分。たくさんの人たちが心の扉を開き、明るさを取り戻した。

神を除けば、人に光を与えられる“人”はそれほど多くはいまい。上野さんは神に近い1人に違いはない。

2011.01 発行 紙ひこうき Vol.355