お母ちゃんのお言葉


「オシャレな子に育ててあげなさいね。女の子はオシャレな子になりさえすれば-間違いがないからね」
男の子が連続で生まれ、 数年のブランクの後ようや く念願の女の子に恵まれた。

女の子と男の子では胎内 にいるときから異なる。私は末っ子の女の子を身ごも っている時、性格が一変した。物心がついた頃からス ズメのような地味な服装し かしてこなかったのに、急 に孔雀になってしまったのだ。
赤青黄色の派手な色彩 のうえに、何とこの私がフ リルのヒラヒラを着たくな っちゃっていたんだよ!  今思えば、胎の子が女性ホ ルモンをばら撒いていてく れたのだと思う。

病院で私は一日中新生児 の顔を眺め続けた。可愛い可愛すぎる…。うっとりし ている私に母は冒頭の言葉 を囁いた。オシャレであり さえすれば、だらしがない、勉強ができない、非行に走 る、行儀が悪い等のマイナ スは絶対出てこないと母は力説した。
「だってそんな ことはオシャレなことじゃ ないから」。

しかし私は母からオシャ レの英才教育を受けた覚えはない。恥ずかしながら高校三年になるまで髪をといたこともなかった。泥だら けのボールがスカートに当 たった時も「平気! 洗う から」と、水飲み場でグシ ャグシャ洗っていたらしい。
そう言うと「あら、淳子ち ゃんは綺麗な物を見ること が好きだったから安心して ましたよ」とのこと。母の言う「オシャレ」とは「エレガンス」あるいは「美意 識」のことであろう。
作家の宇野千代が「オシャレし ない人は泥棒よりもたちが 悪い」という言葉を残しているが、母の説と一脈通じ ているような気がする。

出産後、私はまるで憑き 物が落ちたように元のスズ メに戻った。スズメが育て た娘は、スカートを履かせ ていても「坊っちゃん」と 呼ばれる少女時代を経て、 何だか男前な娘に成長した。 「パパに似てハンサムなお 嬢さん!」と誉めて頂いたこともある。これってオシャレですかね?

紙ひこうき H.18.5号