《受け継がれる研究》


進化論を最初期に唱えたのはダーウィンの祖父、エラスマス・ダーウィン。もちろん内容は、まだまだ孫ダーウィンの域には達してない。そしてフランシス・ゴールトン。この人は馬の交配を理論化した人だから、競馬ファンならご存知かも。当時はこの理論を人間に適用したので、これが社会進化論につながり、やがては人種差別に理論的背景を与えてしまったのだが、この人が実は祖父ダーウィンが外で作った子の子。つまり孫ダーウィンの外従兄弟(ハーフ・カズン)なのだ。

この事実を知った時、科学研究の世界にも『お家芸』というものがあるのだと思わず唸ってしまった。ダーウィン家が親から子、子から孫へ研究が受け継がれていったのかどうかは知らないが、企業や研究所、あるいは大学の研究室では、往々にしてある。

私たちの生活に身近なところでは、近畿大学水産研究所のいわゆる「近代マグロ」がその代表例だ。

1970年、水産庁の旗振りで始まったこのマグロ養殖プロジェクトは、それから試行錯誤とそのデータが継承され続け、32年後に開花。近代マグロは今や大学発ブランド商品の代表格にまでなっている。同様の「受け継がれる研究」はその他たくさんあり、我が国では「30年もの」の研究などはザラだ。

外国では「オレが」手柄を立てなければ意味がないという風土があるのだろうか、あまりこうした例は聞かない。これは「孫子の代のために」と植林をし続けた山国日本の風土気質と無関係ではないと思う。また物性の研究などは10年20年単位の研究を必要とするのだが、アメリカや韓国のように半年単位で結果を出すことが求められる経営体制では、「受け継がれる研究」は難しい。日本のメーカーが一時的には負けても、すぐに逆転できる所以である。

2008.1.7発行 エコノミスト●なごや Vol.33